相続

遺産と相続財産

亡くなった人の財産のことを、法令用語で「遺産」とか「相続財産」と表現しています。
では、「遺産とか相続財産って何、どう違うの?」と疑問に思うかもしれません。
そこで、すこし調べてみました。まずは、民法から。
民法には残念ながら用語の定義規定はないので、条文中どのように用いられているかみてみましょう。

最初に、目次をみてみると遺産はでてきますが相続財産はでてきません。
※「第五編 相続 第三章 相続の効力 第三節 遺産の分割(第九百六条―第九百十四条)」

しかし、e-Govで検索をかけると、相続財産の方がより多くヒットします。相続財産の方が、条文ではよく用いられているようです。
※遺産→57、相続財産→104

では、実際の条文をみてみましょう。まずは、遺産です。
民法906条では「遺産に属する物又は権利」、次条の民法906条の2では、「遺産に属する財産」との表現がでてきます。
これらの表現から、遺産の中身が「物又は権利」・「財産」であることは、なんとなく読み取れなくもありません。
※財産の定義は、とりあえず置いときます。

(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

次に、相続財産です。
民法996条・997条に「相続財産に属しない権利」との表現が出てきます。
つまり、相続財産の中身は、権利である。と民法は言っているのか?
※補足 義務も相続財産とされています(民法896条)。たとえば、債務など。

相続財産に属しない権利の遺贈)
第九百九十六条 遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。

第九百九十七条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。

双方の違いは?条文からでは、良くわからないので辞典から引用してみます。

遺産 死後に残されて相続された財産の総称。相続人の側からみた相続財産

相続財産 被相続人から相続によって相続人に承継される財産の総称。遺産ともいう。

法律学小辞典第4版補訂版 有斐閣

相続財産 相続によって相続人に承継される財産の総称。遺産ともいう。

法律用語辞典第4版 有斐閣

遺産≒相続財産、と考えてもよさそうです。小辞典の解説から、残された財産について相続人側からみるか、被相続人側からみるかの違いとも読めます。※被相続人→亡くなった人

同じことを表現しているのに、なんで表現を統一しないのか、疑問に思われるかもしれません。
昭和22年5月2日までは、民法に「遺産相続」という表現がでてきます。その辺に、ヒントがありそうです。つづきは、次回?にします。

令和元年12月30日 追記

遺産(民法はこの言葉を分割の対象全体を指す意味で使っている)

相続財産(民法はこの言葉を遺産の中に含まれる具体的な個々の財産を指す意味で使っているのがその例である)

我妻榮ほか・「民法3」第3版 2013年1月25日 勁草書房 p285